前回のコラムでお話ししたとおり、民法が改正される話が進んでいます。
民法は、100年以上前に制定されており、規定が分かりにくく、現代社会に合っていない内容も多く含まれるため、大幅に改正される予定です。
売買、贈与、賃貸、請負、雇用、消費貸借(お金の貸し借り)などの契約や、借金などの弁済(返済)、債務の保証や利息など、一般的にも聞きなれた内容を規定している部分が改正されますので、1つ1つ、丁寧に分かりやすく記載していこうと思います。
今回のテーマは、時効です。
時効の改正について、前編・後編の2回に分けて、改正のポイントを詳しく説明しようと思います。
時効とは
「古い話だから時効だ」などと、日常生活でも使われる「時効」という言葉は使われていますね。
法律用語としての時効は、ある出来事が起きてから一定の期間が経ったことを主な要件として、その事実状態を尊重し、その事実に合った法律関係・権利関係を認める制度をいいます。
例えば、ある人が、長年にわたり、自分のものでないものを自分のものであるかのように扱い・ふるまっていた場合に、事実上、長年にわたって所有者のようにふるまってきたことを尊重し、その人に所有権を与えてしまうことです。
時効については、本来の権利者が一定の行為を行うことなどにより、時効を成立させない、時効を止める方法があります。
今回の民法改正で、このような時効を成立させないための方法(時効の中断・停止)についても、改正が行われる予定です。
時効を止める方法①中断→完成猶予+更新
時効を止める方法として、「時効の中断」があります。
時効は、
- 請求(裁判上の請求、支払督促、調停等の申立、破産手続きへの参加、催告)
- 差押え、仮差押え又は仮処分
- 承認
によって、「中断」します(民法147条)。
時効が中断すると、進行していたい時効がストップします。さらに、中断事由が終了したときから、時効はリセットされます(民法157条)。
例えば、
- 2000年1月1日から時効が進んでいた権利について、
- 2004年1月1日、訴訟提起(裁判上の請求)がされ、その後、裁判が進んで、判決が出され、
- 2005年1月1日、判決が確定したとします。
2000年1月1日から3年間進行していた時効は、2004年1月1日、訴訟提起により、ストップします。
判決が確定するまでの1年間、ストップしたままです。 2005年1月1日以降は、再度、時効が進行します。このとき、時効はリセットされ、元々進行していた3年間は、一切カウントされません。
この「時効の中断」ですが、時効の「完成猶予」と「更新」という制度に改正される予定です。
先ほどの例で、時効をストップさせることを、時効の「完成猶予」とし、時効がリセットされて再度スタートされることを、時効の「更新」と規定される予定です。
さらに、先ほどの時効を中断させる事由として挙げた内の「仮差押え・仮処分」については、時効の更新は認められず、時効の完成猶予事由となる予定です(改正案149条)。
時効を止める方法②停止→完成猶予
時効を止める方法として、「時効の停止」もあります。
時効の直前に、未成年に親権者などの法定代理人がいない場合や地震や洪水などの天災が起きてしまい、時効を中断させることができない場合等、時効は停止します(民法158条から161条)。
時効が停止すると、進行していた時効がストップしますが、停止事由が止むと、時効は再び進行します。このとき、時効はリセットされず、元々進行していた時効期間から、再度進行していきます。
この「時効の停止」については、時効の「完成猶予」という制度に改正される予定です。
「完成猶予」とは、先ほど説明したとおり、一時的に時効の進行をストップさせることですから、従来の「時効の停止」と機能・効果は同じです。
時効の停止から時効の完成猶予に呼び名が変わっただけ、といってもいいと思います。
ただし、天災等の場合の、時効の停止期間(改正後では「完成猶予期間」)については、改正が行われる予定です。
今の民法では、天災等が起きた場合でも、時効は2週間しか停止しませんが、改正案では3か月に伸長される予定です。
時効を止める方法③NEW!協議による完成猶予
時効を止める方法として、今の民法にはない、新しい方法が加わる予定です。
それは、当事者の話し合いによって時効を止める方法です(「協議による完成猶予」(改正案151条)。
これによって、当事者の合意によって、時効を止めることが可能になる予定です。なお、この合意は書面でしなければなりません。
以上、今回は時効に関する改正の前編です。
次回、後編もご期待下さい。
(文責:弁護士 若井)
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