今回も、民法が改正されるお話です。前回のテーマ「時効」の後編です。
時効とは、ある出来事が起きてから一定の期間が経ったことを主な要件として、その事実状態を尊重し、その事実に合った法律関係・権利関係を認める制度である、ということは前回お話ししたとおりです。
前回は、この時効を止める方法が改正されるということを説明しました。
今回は、「消滅時効」の改正についてお話しします。
消滅時効とは
時効は、その効果に着目して、大きく2種類に分けられています。
1つは、長年の事実状態を尊重して、権利を認める・与える効果をもつ、「取得時効」。
もう1つは、長年の事実状態を尊重して、権利を消してしまう効果をもつ、「消滅時効」。
この2種類の時効の内、今回の民法改正で、大きく改正されるのは、消滅時効です。
どれくらいの期間で時効が成立するのか、「時効期間」という、時効の根幹・主な要件に関する改正が行われる予定です。
また、時効期間を算定する上で重要な、いつから時効が進行するのかという、時効の起算点についても改正される予定です。
これらを1つずつ、見ていきましょう。
消滅時効の改正①新しい原則・時効期間(「権利者が権利を行使できることを知ったときから5年」)
消滅時効に関する民法の原則は、現状1つです。
「権利を行使することができる時から10年」で時効消滅するというルールです(民法166条1項、167条1項)。
ここでは、分かりやすく「10年ルール」と呼びます。
この原則に、民法改正により、次の新しい原則が追加されることになりました。 それは、
「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」で時効消滅するというルールです(民法改正案166条1項)。
ここでは、分かりやすく「5年ルール」と呼びます。
これらのルールについて、具体例でみてみましょう。
Aさんが、Bさんに、平成25年1月1日に、同年12月31日までを返済期限として、100万円を貸したとします。
Aさんは、Bさんに対する100万円の貸金返還請求権を有することになります。
ただし、Aさんは、返済期限が過ぎるまで、貸金返還請求権を行使できません(Bさんにお金を返すよう請求できません)。
Aさんは、平成26年1月1日から、貸金返還請求権を行使できます。つまり、この日から、時効が進行することになります。
※以下、時効の中断事由・停止事由(改正後では完成猶予・更新)はないものとして説明します。
この例で、現状では、10年ルールにより、
Aさんは、平成26年1月1日から10年間、貸金返還請求権を行使しなかった場合、平成36年12月31日で時効期間が経過することになります。
しかし、民法改正で、5年ルールにより、
貸主Aさんは、平成26年1月1日から貸金返還請求権を行使できることを知っていますから、5年間、同請求権を行使しなかった場合、平成31年12月31日で時効期間が経過することになります。
このように、通常、契約や取引の当事者は、いつから権利を行使できるか知っていますから、実質的にみると、新しい原則により時効期間が10年から5年に短縮されたことになります。
民法改正後は、債権者が、権利を保有しているけれども、権利を行使することができることを知らないという例外的なケースで、10年ルールが用いられることになります。
消滅時効の改正②短期消滅時効・商事消滅時効の廃止
先程、消滅時効に関する民法の原則は、1現状1つ(10年ルール)であると述べましたが、実は、例外がいくつもありました。
民法170条から174条で、職業や取引の種類によって、10年ルールより短い消滅時効期間が定められているのです。
例えば、スーパーなどお店で買った商品の売買代金は2年、医師の診療報酬請求権の時効期間は3年、弁護士の報酬請求権は2年、飲食店の代金請求権は1年などとされています。
また、民法以外でも、会社の取引等で生じる債権の消滅時効は,5年という重要な例外もあります(商法522条)。
しかし、民法改正により、これらの例外は廃止、なくなる予定です。 全て、先程説明した10年ルール、5年ルールが適用されることになります。
消滅時効の改正③人身損害の特例
消滅時効の対象となる債権には、事件や事故から生じる損害賠償請求権も含まれます。
このような不法行為による損害賠償請求権は、現状のルールでは
加害者等を知ったときから3年、不法行為のときから20年経過したときに時効消滅するとされています(民法724条)。
しかし、損害賠償請求権の中でも,人の心身への損害に関する損害賠償請求権(人身損害といいます)については、もっと被害者への保護を厚くすべきだと言われていました。
そこで、民法改正により、人身損害の損害賠償請求権ついては、特別ルールが定められる予定です。
具体的には、5年ルール(知ってから5年)と、権利行使可能なときから20年という長期の時効期間とされる予定です。
権利行使可能なときから20年というルールに関しては、これまで「除斥期間」という時効の中断や停止が認められない期間だとされていましたが、民法改正では、消滅時効期間であることが明記されています。
これによって、時効の完成猶予や更新も可能であることが明らかとなりました。
以上、今回は時効に関する民法改正の説明、後編をお送りしました。
次回、弁護士コラムもご期待下さい。
(文責:弁護士 若井)
春日井駅前の弁護士法人中部法律事務所春日井事務所では、春日井エリア(春日井市、小牧市、名古屋市守山区、多治見市など)の皆様に、身近でよりよい法律サービス提供のため、弁護士・司法書士・スタッフ一同、日々、研鑽を積んでおります。民法に規定の契約・取引・身近な法律トラブルでお困りの方は、当事務所弁護士に法律相談・無料相談ください。